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大阪高等裁判所 平成5年(ネ)199号 判決

控訴人(原告)

高橋靖夫

ほか三名

被控訴人(被告)

西田義雄

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決中、控訴人高橋靖夫に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人は、控訴人高橋靖夫に対し、金七七万八八六〇円及びこれに対する平成二年一二月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原判決中、控訴人高橋義子、同高橋和靖、同高橋和子に関する部分を取り消す。

3  被控訴人は、控訴人高橋義子、同高橋和靖、同高橋和子に対し、それぞれ金一〇万円及びこれに対する平成二年一二月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要

事案の概要は、原判決三枚目裏五行目の「原告」の次に「ら」を、同末行の「恐怖」の次に「又は傷害を受ける恐怖」をそれぞれ加えるほかは、原判決事実及び理由第二 事案の概要(原判決二枚目裏六行目から同四枚目表二行目まで)と同一であるから、これを引用する。

第三証拠

証拠の関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録各記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一  物損についての損害額

この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決四枚目表五行目から同六枚目表三行目までの説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決四枚目裏四行目の「けれども、」の次に「控訴人車は、本件事故の約半年前に自動車登録をしたばかりの自動車であること(乙三)、」を、同六行目の「(乙五)」の次に「(ちなみに、控訴人らも、平成四年五月一二日付準備書面で、自動車のタイヤが交換される時期は通常は三万キロ位以上走行したころで、走行二万キロ位では通常なら交換の必要はない旨主張している。)」を、同七行目の「明らかでなく」の次に「(したがつて、前記認定の走行距離から磨耗の程度を推定し、右前輪のタイヤを取替える場合、他の三本も同時に取替える必要があつたとまではいえない。)」を、それぞれ加える。

2  原判決五枚目裏九行目の「一万〇八七五円」を「一万〇八一五円」と訂正する。

二  控訴人らの『臨死の恐怖又は傷害を受ける恐怖』に対する慰謝料(請求額各々一〇万円)

この点に関する当裁判所の判断は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決六枚目表五行目から同一一枚目裏四行目までの説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決六枚目表六行目の「恐怖」の次に「又は傷害を受ける恐怖」を加える。

2  原判決六枚目表九行目の「一~六の3」を「一ないし五、六の1ないし3」と、「三、四」を「三ないし五」とそれぞれ訂正する。

3  原判決六枚目裏六行目の「一五九〇cc」の次に「、車両重量九六〇kg」を加え、同末行の「三〇又は四〇キロ」を「三〇ないし四〇キロ」と改め、同七枚目表六行目の「三九六〇cc」の次に「、車両重量一七〇〇kg」を加える。

4  原判決七枚目裏二行目の「被告車」の前に「ヘツドライトをつけた」を加え、同六行目の「約一秒」を「瞬時というもので、長くてもせいぜい一秒程度」と改め、同一〇行目に続けて「控訴人らは、本件事故により格別の傷害を受けなかつた。」を加え、同八枚目表二行目の「顕出」を「検出」と改める。

5  原判決八枚目裏四行目の「けれども、」の次に「これを認めるに足りる的確な証拠はなく(控訴人車の助手席にいた控訴人靖夫は『時速五〇キロメートルは出ていた』旨の供述をするが、これにより右の主張を認めるには不十分である。)、かえつて、」を加え、同九枚目表一行目の「せいぜい」から同二行目末尾までを「せいぜい被控訴人が認めている時速三〇ないし四〇キロメートルであつたものと認めざるをえない。」と改める。

6  原判決九枚目表三行目から同一一枚目裏四行目までを次のとおり改める。

「3 現代社会は危険に満ち満ちており、他人の違法行為によつて死ぬかと思つたりヒヤリとさせられたりして、恐怖や驚愕という精神的緊張の瞬間を強いられることが多々あるが、このような場合、被害者の主観的恐怖感ないし驚愕を理由として当然に慰謝料請求が是認されるものではなく、これが認められるか否かは、その加害行為の性質、態様、違法性の程度、生命、身体に対する侵害発生の可能性の有無、程度、発生した被害の内容、程度、恐怖・驚愕の時間と度合い等を総合的に考慮し、一般通常人を基準として、当該状況下において、その恐怖・驚愕を感得したことが、社会通念上、加害行為と相当因果関係のある精神的損害に当たると評価しうるもので、行為者に金銭をもつてこれを慰謝させるのを相当とするか否かによつて決せられるものと解するべきである。

これを本件についてみるに、控訴人靖夫、同和靖は、本件事故直前、被控訴人車が控訴人車運転席へ飛び込んでくると思い、死ぬか、大怪我をすると思つたというのであり、また、控訴人義子、同和子は、本件事故直後、本件衝突により驚きの声をあげ、死ぬかと思つたなどと言い合つたというのであるが(控訴人靖夫の本件尋問の結果)、控訴人らが感得した右の恐怖感等につき、双方の車両の大きさ、重量、速度、衝突の態様、部位、衝撃の程度、控訴人車の損傷の内容、程度、受傷者の不存在等から判断される本件事故とその被害状況並びに恐怖等の体験時間等諸般の事情を総合すると、被控訴人が酒気帯運転であつたことやヘツドライトが対向車線から突然飛び込んできたことによる恐怖感等を斟酌しても、社会通念上、控訴人らが主観的に衝突の瞬間右恐怖感等を感得したことをもつて、行為者である被控訴人に金銭をもつてこれを賠償させることを相当とする精神的損害に当たるものと認めることはできないといわざるをえない。

4 したがつて、控訴人らの『臨死の恐怖又は傷害を受ける恐怖』を理由とする慰謝料請求は理由がない。」

三  以上によれば、控訴人靖夫の請求は原判決主文第一項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却すべきであり、その余の控訴人らの各請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当であつて本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山本矩夫 福永政彦 笹村將文)

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